題名が『銀の猫』だったので、てっきり猫が登場する物語だと思って迷わず買いました。
目次を見ると、八話から連作短編。
第一話が「銀に猫」
第二話が「隠居道楽」
第三話が「福来雀」
第四話が「春蘭」
第五話が「半化粧」
第六話が「菊と秋刀魚」
第七話が「狸寝入り」
第八話が「今朝の春」
きっと、第一話で「銀の猫」の紹介をかねたプロローグ、第二話からどこかに「銀の猫」が登場する短編だな、と確信しました。
しかし、読み進めていくうちに、江戸時代の介護の話であることが分かりました。
主人公の「お咲」は介抱人。今でいう介護ヘルパーさん。
派遣される先々でお年寄りを介護する話でした。
主人公「お咲」が離縁された先の義父から教えてもらった狂歌。
介護先のご隠居が詠っているのが紹介されている。
「しわがよる、ほくろができる、せはちぢむ」「頭は剥げる、毛は白くなる、手はふるう、足はよろつく、歯はぬける、耳はきこえず、目ははうとくなる。身におうは頭巾えり巻き、杖、眼鏡、たんぽ温石、しびん孫の手」「くどくなる、気みじかになる、愚痴になる、心がひがむ、身は古くなる、聞きたがる、死にともながる、淋しがる、出しゃばりたがる、世話をしたがる」「子をほめる・・・・達者自慢に、人はいやがる」pp.38-39
吹き出しそうになったが、何時の時代も同じことに気づく。
江戸時代の話でありながら、現在の介護事情と共通することが多々感じられ、老いることとその先に見えてくること等、作者の主張が伝わってきた。
話の中に、杵屋の五代目が作った「往生訓」、副題が「生き生き楽々 介抱御指南」が出版される経緯も書かれている。
実はこの本の最初の題名は「養生訓」だったが、お咲の意見を聞いて「往生訓」になった。
「この題に変えてもらって良かったと思う。衰えて死に向かいかけた当人は、もう抗っていないのだ。限りある寿命を生き抜いた者にとって、死は抗う者ですらないのかもしれない。そんな往生を介抱する側も受け入れて、再起の日々をわかちあえたら。」(p.321)
お咲の介抱人としての経験から発せられる深い思いが込められている。
「年寄りの介抱を担っている者の大半は、一家の主なのだ」(p.23)という江戸時代の介護事情。
「おっ母さん、お願いだからいなくなって。あたしの前から消えて」(p.43)とまで思ってしまうお咲と母親「佐和」の関係。
介抱人を斡旋する口入屋の夫婦。
お咲と佐和親子が住む甚兵衛長屋の人々等々。
気になるところに付箋を付けていくと付箋の箇所がどんどん多くなっていく。
きっと、これからも何回も手に取って読むことになることだろう。
最後に「銀の猫」は、お咲が今は亡き義父に貰った「根付け」、お守りのような物。常に胸にしまい、なにかあった時に「銀の猫の根付け」を握りしめている。
最後にこの本に猫は登場するのか?
登場しているんです!
「庄助の言う『たま』は銀色の毛を持つ猫で、佐和は『ぽち』と呼んで可愛がり、裏の隠居は『銀太郎』、そしておきんは『たま』と呼んでいて、それぞれが真の飼い主だと思っているらしい」(p.335)最後に紹介されている。
お咲が後生大事に持っている「銀の猫の根付け」、そして、長屋で可愛がられている「銀色の毛を持つ猫」。
今回は何の関係性も書かれていないが、「銀の猫」という題名からして続編が出て、その関係性が出てくるのでは、と密かに期待している自分がいた。