<エピローグ>
民宿「ひなた屋」は佐賀県鍋島市の山あいにある民宿。
民宿を始めたのは主人公のおじいちゃん。
その頃は日当たりがよかったので「ひなた屋」という屋号をつけたらしい。
しかし、その後、竹が生えはじめ、やがて竹林になったため日が遮られるようになる。
結果として、竹林のお陰で夏の涼しさと冬の寒風が入り込まなくなり、快適さが増したらしい!
今は主人公の父と母が切り盛りをしている。
主人公は一人息子の「古場粘児 41歳」、
古場は「ひなた屋」を継ぐため、高校卒業後、調理師学校に入学し調理師免許を持っている。
子どもの頃から釣り好きで、結局、ひなた屋を継がずに釣り師、釣りのライターとして東京を拠点に活動する。
ところが釣り事情の変化から、東京を撤退し、故郷佐賀の戻ることになる。
母親に「一から民宿経営を学びたい」という粘児に、
「あんた、調理師専門学校を卒業したとき、なんていうたかね。俺は釣りを仕事にしたい。そやけん悪いけど民宿を継ぐつもりはなか。仕送りもいらんけん、自力で道を切り開いてみせる。あれだけ大見得を切っておいて、何ねそれは。恥ずかしくないんかね」(p.32)
と一蹴される。
だがひょんなことから民宿を手伝うことになる。
<物語の展開>
古場には「知希」という女性がいて、知希の一人娘が「希実」。
希実は学校になじめず不登校。
知希が勤務先で怪我をしたことが切っ掛けに、希実を東京から佐賀の「ひなた屋」で預かることになる。
初めはぎこちなかった二人の関係が、釣りを通してやがてベストパートナーに変わっていく。
民宿「ひなた屋」のメニューが二人の釣りによって増えていく。
①「イノシシ鍋」
③「イノシシ鍋、「鯉こく鍋」、「オイカワの南蛮漬け」
④「イノシシ鍋、「鯉こく鍋」、「オイカワの南蛮漬け」、「川エビのかき揚げ」
⑤「イノシシ鍋、「鯉こく鍋」、「オイカワの南蛮漬け」、「川エビのかき揚げ」「ウナギのかば焼き」
⑥「イノシシ鍋、「鯉こく鍋」、「オイカワの南蛮漬け」、「川エビのかき揚げ」「ウナギのかば焼き」、「すっぽん鍋」
メニューが増えるごとに話が広がっていく。
主人公「古場」の41歳の挑戦、希実はやがて古場を「師匠」と呼ぶようになる。
<地域ネコ「ひなた」>
トラネコ「ひなた」は雌ネコ、民宿ひなた屋に時々姿を現わしていた。
調理で余った生魚の一部を母親がやるようになって居座るようになったネコ。
その頃は、「ひなた」という名ではなく「無愛想ネコ」と言われていた。
希実がひなた屋にやってきて、初めてトラネコと出会ったとき地域ネコであることに気付く。
「片方の耳の先が欠けていたでしょ。その形が桜の花びらの端っこみたいだから、サクラネコっていうの」(p.127)
「あれはね、去勢手術や避妊手術をしましたっていう印なの。あの子はメスだから避妊手術。誰かがあの子を正式に飼うことにしたとき、ちゃんと避妊手術をしていますからって知らせるため。地域ネコって言う言葉、聞いたことない?」(p.128)
その説明を聞く古場は、
「希実はもしかしたら、あのトラネコと自身に重なるものを感じているのかもしれない」(p.128)
と感じ、トラネコと接することで希実が少しでも元気を出してくれることを願う。
希実はトラネコを「ひなた」と呼ぶようになる。
トラネコは古代エジプト文明の頃には既に存在し、その色合いから太陽の化身として当時は神聖視されていたらしいので「ひなた」という名はぴったりなのかもしれない。(p.154)
その後、「ひなた」は希実が描くイラストとともに民宿ひなた屋のブログに連載される等、ひなた屋の一員として貢献する。
ただ、トラネコ「ひなた」は、「すいません、マイペースなやつなもんで」とひなた屋を訪れた客に古場が謝るように、だれに媚びることなくマイペースを貫いている。
<追記>
「民宿ひなた屋」は、一度、釣り師、釣りルポライターという夢に破れた41歳の男が、再び「釣り」と調理師免許を生かし民宿経営を行っていく物語である。
そこには、故郷である佐賀県鍋島市の自然がある。
古場と希実の関係性にも心打たれるものがある。
希実にとってのトラネコ「ひなた」の存在感も行間から感じてくる。
何よりも「好きなことを生業にできる」生き方がうらやましくもあり、あまり張り切らず挑戦する生き方への指標となる一冊となった。